「今回のMVPを発表する」
鷲獅子戦を終え、惜しくも敗れた俺の耳に、隣の学級の担任がそう宣言するのが聞こえた。
「えむぶいぴーって何だ？」
俺は隣のドゥドゥーに小声で聞いた。ドゥドゥーは、
「分かりません……」 と困ったような顔で首を横に振った。
その戦闘でもっとも優秀な成果を残した者、という意味だそうだ。――後日、わざわざ本人に直接聞いてきたというシルヴァンが、こっそり教えてくれた。なるほど、戦功第一という意味か。しかし、なぜ「えむぷいぴー」という言葉がそれを指すことになるのかは、分からなかった。『そういうものだから』という説明になっていない説明を繰り返されて、すごすごと退散するしかなかったと。
一度命を救われた恩のある相手だが、あの人のことは相変わらず良く分からない。……そういえば、初めて会った時。先生の指揮で盗賊を倒したあと、俺に向かって何か一言言っていた。位置が遠かったのでよく聞き取れず、そして、聞き返す間もなくエーデルガルトが倒したと思っていた相手に襲われるという想定外の出来事があってすっかり忘れていたが、あれはもしや「えむぶいぴー」と言っていたのではなかろうか。そういうことだったのか。
予想外に半年越しの謎が解けたところで、現在の話に戻ろう。我が学級でも戦闘後の優秀者発表は毎回行われており、「誰それが今回の戦功第一だ」とか「今回は誰それが頭一つ抜けていた」とか表現されていたのだが、いつの間にか当たり前のように「えむぶいぴー」と呼ぶようになっていた。使いだすとなんともしっくりくるというか、これ以上ない言葉のように思えるから不思議だ。
「えむぶいぴーって結局なんなんですか？」
一度、えむぷいぴーを初めてとったアッシュにそう聞かれたことがある。俺は先人に倣って、静かに『そういうものだから』と意味ありげな顔で答えた。アッシュは首を傾げていた。さもありなん。
