下郡中のログ庫

下郡(しもごおり)と中(あたる)のログ保管庫

ボツ(下郡)

◆舞台の上の貴女

私の初恋は、美しく、気高く、悍ましい獣の姿をしていた。それは、女のカタチをしていた。 帝都に拠点を構える有名な歌劇団が、新しく大きな歌劇場をつくって、拠点をそこへ移すことになったという。少女であった私にそれを教えてくれたのは、八百屋の女主人…

◆日常/バルタザール

とある書物によれば、人が想像し得る範囲の出来事は実際に起こり得るのだそうだ。 随分と昔、まだ己が貴族の跡取りとして教育を施されていた頃の話だ。そんな馬鹿な話があるか、と読んだ当時のバルタザールは思ったものだが、いざこれまでの人生を振り返って…

◆女神の見えざる歯車/ベレディミ

命を救われた恩人が、士官学校で教鞭をとることになった。運よく俺の学級を受け持つと知った時には喜んだが、後々、先生が自ら青獅子学級を「選んで」くれたと知ったときは猶更嬉しかった。先生は素晴らしい人だ。俺が全力で打ち込んでも、それを容易く受け…

◆軍務卿と紋章学者

カスパルの枕を抱え込んで、すやすやと寝息を立てている幼馴染を見ながら、カスパルは欠伸をひとつ零した。 帝国の軍務卿としては、屋敷に(一応は、と注釈はつくが)客人として招いている以上、貴族籍を捨てたとはいえ皇帝陛下が直接研究費を出資している紋…

◆MVP/青獅子

「今回のMVPを発表する」 鷲獅子戦を終え、惜しくも敗れた俺の耳に、隣の学級の担任がそう宣言するのが聞こえた。「えむぶいぴーって何だ?」 俺は隣のドゥドゥーに小声で聞いた。ドゥドゥーは、「分かりません……」 と困ったような顔で首を横に振った。 その…