下郡中のログ庫

下郡(しもごおり)と中(あたる)のログ保管庫

◆にょたいか/フェル+ロレ

 共に酒を酌み交わし、部屋に戻るのも面倒だとその場で雑魚寝して、二日酔いもなくすっきりした気分で目覚めたら、隣でローレンツの肉体が女性になっていた。何を言っているのかわからないと思うが、フェルディナントもまったくわからない。当事者であるローレンツは、それ以上に混乱している。
「な、あ、あ!?」
 鏡に向かい、自らの胸を両手で掴んで確認し、股間に手をつっこんであるべきものが無いことに気づき、ローレンツはもはや意味をなさない悲鳴をあげている。フェルディナントは慌てて目を覆った。なにか声をかけて落ち着かせてやりたいとは思うものの、何を言えばいいかはさっぱりだ。何より、目の前の光景があまりにも目に毒で!
「こ、これは夢か……?僕の浅ましい欲が……? どう思う?!フェルディナントくん!」
「私に分かるわけがないだろう!」
「ではせめてこれが現実かだけでも確認してくれたまえ!さあ!」
「無茶を言わないでくれたまえ!!」
 フェルディナントとしても、友として困っている彼の力になりたいのはやまやまだったが、なにせ現在相手の体は女性なのである。中身はローレンツだと分かっているけれど、だからといって、じろじろ見るわけにはいかない。たとえ相手が、自分からさあ触れとばかりに上体をさらけ出していようとも! フェルディナントは紳士であったし、未婚の令嬢に軽率に触れるのは恥ずべきことという認識があった。目の前の肉体を未婚の令嬢として扱うことの是非はともかくとして。
「とにかく服を着てくれ!そうでないと話もできない……」
「う……。それもそうだな」
 時間がたって、ローレンツもやや冷静さを取り戻していた。ローレンツも紳士であった。自分の身体ではあるものの、女体を好き勝手触っているのは未婚の貴族としてよろしくない。さきほどまで乱暴につかんでいたとは思えないほど丁寧に、ローレンツは胸を労りながら服を着て、下履きを身に着けた。とにもかくにも、状況の整理が大切だ。
 が。ふるりと下半身に震えが走る。酒のせいか、それとも体を冷やしたせいか、尿意がこみあげてきたのである。ローレンツはフェルディナントに一言断って部屋を出た。フェルディナントはそれを見送って、ようやく一息ついた。
「それにしても、いったいどういうことだ……」
「フェルディナント君!!!」
 思考の海に飛び込もうとしたフェルディナントを、外から聞こえてきたローレンツの悲鳴が遮る。なにかあったのか。今のローレンツは女性の体だ、もしや、無体をはたらく輩がいなかったとも限らない。己の考えの至らなさを恥じながら、フェルディナントは慌てて部屋を飛び出して、ローレンツの名前を呼びながら厠に駆け込む。
 果たして、そこに彼……彼女はいた。
 泣きそうな顔でこちらを見ている。いつもの癖で、立って用を足そうとしたのだろう、下履きと床を盛大に汚しながら立ち尽くす友に、フェルディナントは今度こそかけるべき言葉が見つからなかった。