下郡中のログ庫

下郡(しもごおり)と中(あたる)のログ保管庫

FE風花雪月発売1周年おめでとうございます(イラスト/SS)

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このゲームを生んでくれたスタッフの方々にはたくさん良いもの食べて長生きして欲しいです!最初に選んだベレトでお祝い🎉(中)

 

 ここ、ガルグ=マクには様々な動物が住み着いている。その数は猫が断トツに多く、次いで犬だ。どうやら大司教の趣味――ともっぱらの噂であったが、フレン曰く、そうではないという。気付いたら居付いていて、害もないので放っておいたら増えたのだと。ベレトは別に殊更の動物好きというわけではない。別に嫌ってもいないが。居るな、と思うが、それだけである。おそらくここで生活する人たちの殆どがそうだったのだろう。それで、こうなったと。

 犬も猫も食えないから興味がない。犬はまだ狩りに使えるが、猫は鼠を捕るくらいしか役に立たない。エーデルガルトはその点を途轍もなく(いっそ過大ではないかという程に)褒め称えていたが、生まれた時から傭兵以外の生き方を知らず、特定の住まいを持たないベレトには共感しづらかった。大体、ここの猫というのは人に貢がれ傅かれることに慣れすぎていて、己から鼠を狩りに行くような気概をとんと感じない。先日なぞ、アッシュが厨房から余った食材を譲ってもらっているのを見かけて、よもやそれほどまでにひもじい思いをしているのかと心配して声をかけたところ、可愛がっている猫にやるのだとはにかまれて気まずかった。猫は暢気にその足元にじゃれついて、にゃあと鳴いた。野生が死ぬと動物はここまで怠惰になれるのかと、いっそ感心するほどである。そして翌日、まったく同じやりとりを違う生徒と繰り広げた。ブルーカスパル、お前もか。

 どうせ居付くのだったら兎や狐であれば良かったのにと思う。それなら狩って食べる楽しみもある。一度そう口にしたら、ベルナデッタには「悪魔的発想ですううううう」と怯えながら罵られ、マリアンヌには厭悪を隠さないじとりとした視線を向けられた(基本的に彼女は肉料理をあまり食べない)ので、二度と口にはしていない。溜め池の魚は釣れば賞賛されるし、皆喜んで食べるのに、不思議なものだ。余談だが、魚釣りが壊滅的に下手なアロイスはなぜか猫にはめちゃくちゃ好かれるらしく、よく纏わりつく子猫たちを踏みつけないよう気を使いながら変なステップで移動しているのを見かける。どれだけ猫が釣れようと、腹は膨れないのに。……食堂での雑談ついでにそう口にしたら、イングリットに、先生……と悲しそうな顔でお肉を分けて貰った。よくわからなかったが、なんとも申し訳ないことをした気になったので、これも二度と口にしていない。

 しかし最近、そんなベレトの価値観を大きく変える出来事があり、今では積極的に犬猫と触れ合うようになっていた。

 先節のことである。いつも通り商人から仕入れた小魚(生餌)とその辺でひろったミミズで釣りに励んでいたベレトだったが、食堂へ成果を運ぶ途中、未だ活きのよかったアミットゴビーが一匹大きく跳ねて、地べたに転がったのである。びちびちと跳ねる魚にベレトが手を伸ばすより、近くにいた猫がそれを咥える方が早かった。「あ?」と「は?」の中間みたいなクソ低い声が出た。そんなことお構いなしに猫はむしゃりと魚を食べると、当てつけのように小さい石をこちらにぶつけて去っていこうとする。思わず腰の天帝の剣に手が伸びたが、「あら」と背後からコンスタンツェの声がして、続いて「それはウーツ鋼ですわね!」と言うものだから目を剥いた。まだ真昼間なのに普通に活動している……?

 一瞬驚いたが、見上げた空はどんよりと曇っていた。小石(改めウーツ鋼)を拾いながら、ちらりと先ほどの猫を見れば、しきりと前足で顔の毛繕いをしている。一雨きそうだな、とベレトは思った。真偽のほどは知らないが、以前リシテアが得意げに語っていた説によると、猫の髭は非常に敏感で、わずかな湿度の変化すら感じ取れるのだとか。雨が降る前の空気は湿気が多くなり、それが髭に纏わりつくのを嫌がって顔を擦るような動作をするのだとか。なおペトラの言によれば、猫は精霊と話ができるので、それによって天候の変化を知ることができるのだそうだ。それが本当だとして、どうして顔を洗う動作に結びつくのか?という問いには答えて貰えなかった。処世術と言えば聞こえはいいが、「フォドラの言葉難しいです」ですべて躱せると思うのはやめてほしい。

 「ネコ、餌あげたらたまに石くれるよね」と、一緒に地上に出てきたらしいハピが言う。話を詳しく聞いたところ、ここの犬猫にはよくあることだというではないか。野生を忘れ人に甘えることでしか生きられぬ哀れな畜生共と思っていたが、なるほど礼儀を弁えている。ギブアンドテイク。傭兵であったベレトにとって、それはとても好きな概念であった。与えたら返ってくる。犬猫にとっては使い道のない石ころであろうが、こちらからすれば喉から手が出るほど欲しいのだ。その為なら、多少の苦労は厭わない。

 そんなわけで、今日も今日とてベレトは士官学校中を走り回っていた。この一節で、犬猫のよく現れる場所は大方把握した。把握したというか、そのスポットを纏めたメモをユーリスから買った。まいどあり、と悪辣商人みたいな顔して笑った彼がどうしてこんな、他に需要もなさそうな情報を纏めていたのかはよく分からなかったが。買い物ついでにアンナとの雑談でその話をしたら、そりゃあ自分の為でしょう、と笑われた。彼も石が欲しかったのか……? 抜け目のない奴だと思っていたが、ライバルに情報を売ってしまうとは抜けている。

 近くに寄ってきた猫に魚をやる。食べるのを眺める。にゃあ、と鳴く。足りないのか。もう三匹目だというのに。これ以上こいつに魚は勿体ない気がしてキャベツをやった。にゃあ、と鳴く。まだ足りないらしい。ひよこ豆でいいか。毒石をくれた。畜生。次の猫を探して再び走りだす。不思議なもので、犬猫を求めて徘徊していると、フェリクスとイエリッツァにもよく遭遇した。前者は何も言っていないのに「うるさい」と謎の難癖をつけながら去ってゆき、後者はただ見ているだけなのに「何か……言いたいことでもあるのか……」とやっぱり難癖をつけながら去っていった。その自分勝手な感じは猫に似ているな、とベレトは思う。試しに魚を差し出してみたら、前者には「何の真似だ」と怒られ、後者には「私は……生魚は好かない……」と拒まれて終わった。石くらいくれてもいいだろうに。闇魔法試験パスでもいい。

 この二人ほどでもないが、イグナーツにもよく出会う。彼は楽しそうに猫がじゃれ合っている姿を描いている。彼曰く、これは平和の象徴だという。平和はいいことだ。なのでベレトは「猫を飼おう」と決めた。

 こいつまたなにか変なことを言い出したぞ、みたいな顔をする周囲を無視して、アビスの隅っこで生まれたばかりの子猫がいたのでちょうど良いとばかりにベレトはそれを自室へ連れて帰った。白い子猫だ。連れて帰ったはいいが飼い方はわからなかったので、そういったことに詳しそうな生徒の知恵を借りる。メルセデスは柔らかい布で猫の汚れを落とし病気の有無を確認してくれ、ツィリルは温くしたミルクを厨房で用意して持ってきてくれた。まだ目も開いていない子猫に生魚をやろうとした話をしたら、普段温厚オブ温厚でそろそろ五聖人としてカウントされるんじゃないかともっぱら(ベレトの中で)噂のラファエルにめちゃくちゃ怒られたので反省した。

 もとよりだいぶ犬猫への態度は緩和していたが、飼い始めるとそりゃもうすごい勢いで和解が加速した。散策中に犬猫を、石の有無にかかわらず撫でてやったり餌をやる機会が増えた。その為に散策してるとこ、ある。「猫は平和の象徴だからな」ベレトはそう言って微笑んだ。情緒がだいぶ育っている……アニマルセラピーは偉大……と周囲がひそひそしていたことには気づかなかった。

 だが、もうすぐ卒業式だ、という時期になって平和の象徴はベレトの部屋から姿を消した。猫は死ぬ前に姿を消すのだという。以前シャミアがそう言っていた。なぜか、そのことを思い出した。

風花雪月一周年おめでとうございます。ネコと和解せよ。出てくる人物はすべてお茶会で「猫の話」に食いついてくれる人たちです。攻略の参考にしてください。(下郡)